養育費の消滅時効について。請求できる?できない?

離婚をなさる際に,お父様とお母様との間で決めるべきこと,決めておいた方がいいことはたくさんありますが,とりわけ養育費についてはしっかりと取り決めを行っておく必要があります。

養育費は,お子さまのためのものです。離婚をしてもお子さまにとっては,父親・母親であることには変わりがないのですから,できる限り養育費のことで揉め事は起こしたくないですよね。

 

しかしながら,しっかりと決めたはずの養育費も,「当初から支払われたことがない」,「払われたり,払われなかったりする」,「時間の経過とともに支払われなくなってしまっている」等の声を耳にすることは少なくありません。

 

未払いの養育費は,しっかりと請求したいものですが,ここで立ちはだかるのが,時効の問題です。

 

みなさん!養育費は一定期間放置していると,時効によって請求できなくなってしまうことをご存じですか。

一度時効で消えてしまったら,復活するものではありませんから,お子さまの為の養育費の時効についての知識を今一度,確認しておきましょう。

 

そもそも時効ってなに?

そもそも時効という存在はご存じでしょうか。

なんとなく聞いたことがあるという方もいらっしゃると思いますが,時効には大きく分けると2種類あります。「取得時効」と「消滅時効」です。

ざっくり言うと,どれだけの期間,我が物顔で持っていれば自分のものにできるかな,という考えが「取得時効」。反対に,どれだけの期間,知らん顔で放置すれば自分のものではなくなってしまうかな,という考えが「消滅時効」です。

 

養育費について関係してくるのは「消滅時効」です。

つまり,どれくらいの期間,養育費の未払いを請求せずに放置していたら,請求できなくなるのだろう,ということです。

 

援用が必要

養育費の時効について解説する前に,時効には「援用」という行為が必要だということを説明します。

たとえ「取得時効」や「消滅時効」に該当するような時間が経過していたとしても「時効を援用します」という意思表示をしなければ時効の効果は発生しません。つまり「取得時効」の場合には「時効を援用します」と自分で言わないと,「取得」はできませんし,「消滅時効」の場合には相手が「時効を援用します」と言わないとあなたの権利は消滅しません。

例えば,金銭債権は一般的に10年で消滅時効を迎えます。

借りたお金の返済期限から10年を経過すれば,貸した相手方は返してくださいと請求する権利を時効によって失うことになります。

「返してください」という相手に対して,「時効を援用します」といえば,借りた方としては,返す義務が消滅するということです。しかし,このときに「わかった,ごめん。でももう少し待って」などと言ってしまうと(債務承認といいます),その時点で時効を援用するつもりはない,ということで,消滅時効の効果はなくなります。つまり,貸した方は返してくださいという権利が存続することになるのです。

後日「いや,あのときは時効だって忘れていたんだ」,なんていう言い訳は通用しません。

時効の援用はかなり大切なものなので,頭に入れておいてくださいね。

 

養育費の消滅時効は何年?

さて,養育費の時効の話しに戻ります。

結論は原則5年です。

なぜ「原則」って言っているのだろう?と思いますよね。解説します。

養育費は,毎月定期的に支払われるものです。たとえば,お子さまが10歳の時にご両親が離婚したとして,その際の取り決めとして20歳までの分の養育費を一気に支払ってください!と請求することはできません。

理由は以下のとおりです。

養育費は,支払期限が到来して,初めて債権が発生するという性質です。つまり,毎月の支払期日に養育費債権は発生します。ですから5年後どころか来月の養育費の債権さえも,今月の今の時点では発生していないことになるのです。

権利があって初めてその権利を行使することができるのですから,債権が発生していなければ,請求はできません。ゆえに,将来の養育費を先払いとして請求することはできないのです。

このように定期的に支払われる債権のことを「定期金債権」といいます。

 

定期金債権の時効は民法169条に「5年間の短期消滅時効にかかる債権」として定められているので,養育費の時効も5年です。

なお,民法改正でもうすぐ短期消滅時効という制度は撤廃され,5年に統一されますが,養育費請求権はもともと5年ですので,改正後でも同じです。

 

具体例で見ていきましょう。

1999年3月 離婚(子供3歳)養育費の取り決めなし

2003年4月 養育費の支払いについて調停を行い,下記の内容が調停調書の内容として決定

 1)2003年4月から毎月末日限り,子が満20歳に達する月まで,毎月月額3万円を支払うこと

 2)1999年4月から2003年3月までの間,未払い養育費総額144万円があることの確認と2003年12月末日限りで支払うことの約束

内訳

1999年      :3万円×9か月=27万円

2000年から2002年:3万円×12か月×3年=108万円

2003年      :3万円×3か月=9万円

2003年12月 144万円の支払いなし

しかしながら,毎月の養育費は支払われていたので,144万円については請求をしませんでした

2005年3月 養育費の支払いがとまる

 調停が大変だったので,なかなか請求をすることができずにいました。

2011年3月 子供が高校生となり,生活が大変になるので養育費を請求したい

 

よくあるご相談内容です。

さて,この場合,いくら請求をすることができるでしょうか。

 

普通に考えれば,2005年3月分から2011年3月までの分(219万円)と,144万円の合計363万円を払ってほしいですよね。

この場合,いったんは363万円を請求することができます。それに対してお相手が「わかった,ごめん」と言ってくれれば(債務承認があれば),時効など気にせずに363万円の支払いを求めることができます。

しかし,お相手が「時効を援用します」と言った場合…

時効によって,過去に遡ることができるのは,ただちに5年分に制限されてしまいます。

つまり,3年×12か月×5年分の180万円です。

では,144万円はどうなるのでしょうか。

調停調書を作ったのは,2003年。養育費の時効はどうなるのでしょう。

1999年4月から5年?  2003年4月から5年?

 

ここで新たな条文があります。民法174条の2というものです。

ここでは,

確定判決によって確定した権利については,十年より短い時効期間の定めがあるものであっても,その時効期間は,十年とする。裁判上の和解,調停その他確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利についても,同様とする

 

と定められています。これによって,調停調書によって決定された権利については10年の時効になります。つまり,2013年まで144万円は時効にかからずに請求することができるのです。これが「原則」5年とお伝えした理由です。

養育費であっても,確定判決あるいは,裁判上の和解,調停等で確定した権利については,5年ではなく10年の請求が可能となります。

 

まとめ

養育費の時効は原則5年です。しかし,例外的に確定判決等で,過去の分について確定した権利として認定されたものについては,5年ではなく10年の時効となります。

しかし10年にするためには,確定した権利にするための手続きを経なければなりません。約束したはずの養育費の支払いが遅滞した際には,放置せずにすぐに請求をしましょう。

ご自身で請求するのが大変だな,気が引けるなという場合には,是非弁護士に相談してみましょう。

養育費はお子さまのための権利です。大切なお子さまのためにしっかりと手続きをしましょう。

 

 

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